ベストアルバム「with YOU」のマスタリングが終了しました。写真はそのマスターテープ。あらためて聴いてみると、いやまあ、デビュー当時の演奏の、血の気の多さったらないですね(たかだか5年前ですけど)。当時、青臭いとかなんとか、そういう言葉がぼくたちにつきまとっていた理由が、はっきりとわかります。今ではもう、何も言い当てることのできない言葉になっていますが。
今回発表することになったこのアルバムは、一般的に受け止められている「ベストアルバム」とは性格が違います。レコードメーカー主導で制作したものでもなければ、時系列に沿ったシングル・コレクションでもありません。収録曲がそれを表していると思いますが、これはもっといびつなもので、言ってみれば試行錯誤の中でぼくたちが経験してきた「小さな変革の集積」みたいなものです。
ぼくたちは「体裁」というものを嫌ってきました。カップリング用に、という心づもりで曲を作ったことは一度もないし、フルアルバムの制作においてもそれは同じです。曲をストックせず、その時点でのベストを常に発表してきました。すべての曲に思い入れがあります。まず、そういう理由から、ぼくたちにはいわゆる「ベスト盤」という概念が当初からありません。出してきたものひとつひとつがベストアルバムであって、仮に表面的なサービス精神から「誰もが妥当だと考えるベストアルバム」を出したところで、ぼくたち5人は、そんなものに責任を持てないと考えたのです。それが「作品」だと自ら明言できるか否かということです。
また、ぼくたちの音楽を大切に考えてくれる方々の感覚は、実に様々です。以前、ファンクラブのイベントで演奏する曲を決めるためにアンケートをとったところ、全ての曲に均等に票が入ってしまったということがありました。そういった経験もあって、ぼくたちは自分たちの完璧なベストアルバムは、みなさんの心の中以外のどの場所にも、存在しないのだと考えています。
収録されている曲は、ぼくたちにとって小さなエポック・メイキングであったと言えるものです。その集積はひとつの本質を表していると思います。ぼくたち5人がそういう作品(本質としてのベストアルバム)を出そうと考えたことについては、やはり「TUTTI」を作ったことが大きく作用しています。ぼくたち自身でさえ持て余していた、得体の知れない、そしてまだ誰も知るはずのない「バンドの本質」というもの、それが「TUTTI」制作の中で、今まで以上にリアルになってきたのです。置いていくものと、持っていくものを整理する必要がありました。
「VISTA/ハミングライフ」をアルバムに収録したことで、ぼくたちは今また「ストックゼロ」の状態にあります。
ツアー最後の合奏を、ぼくたちはここから始めたいのです。