山

中村航さんと一緒に、長嶋有さんの夏の仕事場、北軽井沢の山荘に行ってきました。昼間は涼しいけど、日が落ちるとやっぱり寒い。僕は寒いのが苦手なので、重ね着したＴシャツの上に登山用のフリースを着てちょうどいいくらいでした。中村さんも長袖の上に、和小学校ジャージを（長嶋有『ジャージの二人』参照）。中村さん、そういえば去年もここで、このジャージ着てましたね。
その後三人でセッションしようということになって、「サイドカー」とか「ヘルター・スケルター」を演奏しました。僕がギター、長嶋さんがベース、中村さんがボーカルという編成です。観客のいないこの「ヤマロックフェス」の模様は長嶋家のプライベート・フィルムに収められ、僕はそのあといよいよ、ある対決に臨んだのでした。それは、軍人将棋。

軍事将棋ともいわれるこのマイナーなゲーム、去年までは僕もよく知らなかったんですが（この山荘で覚えた）、やってみるとこれがけっこう面白いんです。最大の特徴はまず、互いの駒が伏せてあって見えないことですね。駒にはいろいろな種類があります。元帥、スパイ、戦車、地雷、工兵、軍医…それらを自分なりの作戦で配置、行軍させ、敵の本部を攻め落とすのが目的です。各駒の強さというのは、たとえば「元帥はすべてに勝つが、スパイに負ける」という具合に決まっていて、互いの駒が接触すると「戦闘」になります。その勝敗は審判に委ねられ、「えー、白の勝ちです」とか「引き分けです」といった結果だけが、対戦している両者に通告されます。両者はその情報をもとに「今負けた（あるいは勝った）駒が何であったか」を推理することになります。ゲームを大きく左右するのは、この推理ですね。より正確に、ロジカルに駒を動かしていった方が、最終的に勝利することができるのです。

去年、僕は初めてこの軍人将棋というものをやって長嶋軍に大敗したのですが、今年はまあまあ善戦しました。「スパイ」の初期配置が成功し、なんと、最強の駒である「元帥」を真っ先に倒すことができたのです。これはいける！ということで、僕は早速一個師団を形成、その中にこちらの「元帥」をそっと紛れ込ませ、じわじわと進軍したのでした。しかし敵もさるもの、勝敗結果からこちらの「元帥」の位置をすぐに把握し、スパイを送り込んできます。そしてこれが見事ヒットし、こちらの「元帥」もあえなく敗退。戦場は「両者決定力不足」の様相を呈し、長期戦へともつれていったのでした。

この戦い、３時間以上にも及んだのですが、最後はやはり長嶋軍が勝利しました。通算成績０勝２敗…。今回は勝てたゲームだっただけに、悔しいなあ。しかし来年こそは！

フィドル

「OTODAMA」の余韻がまだ残っております。あれは本当に、楽しかった。個人的には「Take me home country roads」でバイオリンを弾いたのが特に面白かったですね。ああいうラフなスタイルでバイオリンを弾くとき、そのバイオリンのことを「フィドル」というのですが（ウェスタン、トラッド、あるいはジャズなどもそうですね）、ぼくはこの「フィドル」がとても好きです。
ところでみなさん「ROOTS」というTVドラマをご存知ですか？アレックス・ヘイリーという作家の長編小説が映像化されたもので、ヘイリー自身のルーツ、つまり家系が脈々と描かれた、長大な物語です。どうしてそれが物語になるのか、というと、それはヘイリーの家系の歴史が「奴隷制度の歴史」であったからなんですね。時代は１８世紀にまでさかのぼって、アフリカのガンビアで生まれ育った少年、クンタ・キンテが奴隷商人に連れ去られてしまうところから始まります。物語はそこから大波乱に満ちていくわけなんですが、えーと、それとフィドルに何の関係があるのかといいますと、物語の中に「フィドラー」というおじいさんが出てくるんです。彼もやはり奴隷で、クンタ・キンテがこき使われる屋敷で長年隷属をしてきたのですが、その間にフィドル弾きとしてのスキルを身につけていました。で、その弾き方が、とにかくかっこいい。
普通バイオリンというのはこう、アゴと肩の間に挟む格好で演奏するものですね。でもこのフィドラーは、その奏法だけではなくて、ときどきすごく低い位置に構えて演奏をするんです。左腕の下腕部にバイオリンを乗せた状態、という表現で伝わるでしょうか（ウェイターが片手でお盆を持っているような感じ）。その状態で、けっこう速いテンポの曲をごりごり弾きまくる、これがねえ、かっこいいんですよ。「オーケストラやりたいな」と、なんとなく思っていた高校生の僕にバイオリンを買わせた、その「最後のひと押し」がこのフィドラーの姿だったんです。
そういったわけで（長かった・・・）この間の「OTODAMA」で、リラックスした状態で、思いつくままにごりごりとフィドルを楽しめたことは、僕にとってはとっても印象に残りました。バイオリンやめないでよかった。
「ROOTS」もたいへん素晴らしい作品ですから、時間のある方は（めちゃくちゃ長いです）夏休みの間に観てみるといいですよ。これを超える感動作って、僕はまだ観たことがないです。

−７

今日はメンバー全員、健康診断に行ってきました。そのクリニックは、うちの事務所スタッフとか、親会社のMSの社員の方々が法定検診で利用しているところなのだそうですが・・・なんだか高級ホテルみたいな感じでしたねえ。法定検診なんかたいしたことやらないのに、どうしてあんなに誂えを豪奢にする必要があるのか、僕にはまったく理解できませんでしたが。まあ、それはさておき、今日僕はものすごく驚いたことがありました。検診に行って判明したことなのですが、これはちょっと、いや、けっこうなショックでしたね（でも病気とかそういう類いのことじゃないので、ひとまずご安心ください）。それは何だったかというと、僕自身まったく自覚がなかったんですが、ここ半年くらいの間に、体重が７キロも減っていたんです。これは、今までになかったことでした。僕は元来やせているほうではありますが、そのかわりいくら食べても、いくら無理を続けても、体重って１キロ以上変動したことないんです。それに加えて、僕はこの半年くらい、けっこうな量を食べていたはずなんですよね。たぶん素生と同じくらいか、あるいはそれ以上を。そういうこともあって、この「謎の７キロ減」には面食らってしまいました。どうしてこんなに急に体重が落ちてしまったんだろう・・・。ここ半年といえば、ちょうどツアー時期、それとCF・PVを含む「VISTA／ハミングライフ」関連の仕事をしていた時期ですが。身体的にはけっこう、こたえてたのかなあ。
原因は不明ですが、これはさすがにやばい、と思っております。とにかく、今日からは生きるために食べなければ。スキヤキだ、スキヤキだ。

夏合宿

新曲制作のためのファースト・ステップとして、例年行っている夏合宿。到着してみると、そこは「鳥獣保護区」でした。そういえば今年のロケーションに関してメンバー側は「ちょっと去年とは変えてみようよ」と言ったきり、あとのことは完全にスタッフ任せだったんですね。僕としても、ツアー後すぐにソロの準備があったりしたので「じっくりスタジオに入れるんだったら、どこでもいいよ」という感じでした。しかしまさか埼玉だとは思わなかったなあ・・・。埼玉といっても、神川ですよ。もう、埼玉と群馬の境です。僕にバイオリンの手ほどきをしてくれたオーケストラ時代の友達がこのあたりの出身なので、僕も大学生だったころは何度かこのあたりに来ました。たしか梨の産地なんですね。丹荘という無人の駅があって、そのちょっと先が群馬藤岡で、八高線という二両編成くらいのディーゼル車輛（！）がたまにそこを通ったりするんです。リアル埼玉弁も聞けます。そう考えると、アレですね。われわれもデビュー当時は「カントリーサイドから現れた新人」とか言われてましたが、桶川とか上尾とか、大宮なんか全然カントリーじゃないと思いますよ。ここと比べたら、東京とそんなに変わらないですね。

それはさておき、合宿の主な内容は「時間を気にしないセッション」というものです。ここでは僕はほとんど何も主導しません。ときどき、ドラムのフレーズでセッションの流れをぐいっと変えることはありますが、それくらいですね。あと和音の解釈についてアドバイスしたり。僕の理解では、セッションをするということはつまり、素生の曲を作っていくことなのです。僕は僕で、自宅で細々と作業します（ひとりでやるほうが向いているので）。それからこの写真ですが、おそらく、解説が必要でしょう。このサムライみたいな人は、この日「もっと速い曲がやりたいんだよ！」と言い出したので、他のメンバーから「速いって言っても、どういう感じ？ちょっとそのイメージを見せてよ」と言われる結果になり、こうしてドラムを使ってそれを表現しておるわけです。表情が真剣ですね。

セッションで数曲の原型をつくったあとは、ちょっと遊びに行ったりもしました。抜けるような青空とかんかん照りのもと、清流で遊ぶ３人。水が深くなっているところをうまく見つけて（渦を巻いているポイントがそうらしい）、岩から何度も何度もそこに飛び込んでいました。僕はその様子を写真に撮ったり（怪我するなよー、とか思いながら）、石を採集したりするほうが面白かったので、膝から下だけ川に入った格好でしたが、それでもすごく気持ちよかったな。やっぱり、たまにはこういうところに来なくちゃいけないような気がします。こういうのって話だけ聞いていると「まあ、そうだろうね、良かっただろうね」とは思うものの、実際、あんまり行く気になっていない自分を発見したりしませんか？僕はけっこうそういうことがあるんですが（これも頭でわかっているだけ、という物事のひとつですね）。でも本当にきれいな水に触れることは、大事だと思います。ちなみにこのとき、例のサムライは疲れてしまったのかベッドの中でした。もったいないなあ。

歌のおにいさん登場

さて、前回は「SILENT BLEEZE」ってこんなところですよ、という話をしました。今回は、そこで行われたライブについて少し書いてみたいと思います。まずは、完全参加型のトータル・アトラクション「歌のおにいさん」。「翼をください」を歌いながら、じわじわと動物たちのところへやってきます。このときやっと「あっ、桜井さんだ！」と気づいたお客さんもけっこういましたね。そう、この「歌のおにいさん」、実は桜井秀俊さんだったのです。完全参加型ということで、選曲も「幸せなら手をたたこう」「ビューティフル・サンデー」「上を向いて歩こう」など、みんながよく知っている曲ばかりでした。それから、ちゃんと「どか〜ん」もやってくれるあたりはさすが、心得ていらっしゃる。いつもみんなの期待を裏切らない、それが「歌のおにいさん」なのですな。

そして、われわれゴーイングのライブは非常に簡素な編成で行いました。基本的な使用楽器は、アコースティック・ギター１本とパーカッション類（ボンゴ、シェイカー、小豆）のみ。あとは曲に応じてフィドル、カズーを使ったくらいですね。なにしろこの草っぱらには電源というものがありませんので、手拍子、コーラスなど、いわゆるひとつのヒューマン・エナジー（でいいのか？）が全てであるわけです。えーと、それで実は、われわれがこの場への出演を決めたのは、これが大きな理由でした。
普段のライブだったら、ステージまわりの下準備はほとんどスタッフの手によって行われます。われわれはただステージに出て演奏のことだけを考えていればいいのであって、照明も音響も、当たり前のようにそこにあります。つまり、いつも必ず何らかの「お膳立て」がある。これはもう、そういうことになっているんです。良いとか悪いとかの問題ではなく（そうですよね？）。それで、数年にわたり、そういう環境の中でずっとライブをやってきたわれわれにとって、この「SILENT BLEEZE」には、とても惹かれるものがありました。「ここでうまくやれたら、きっと大きな自信がつくだろう」という気持ちがあったし、それから反対に「ここで何も伝えられないようなら、どこへ出ていっても、誰の力を借りても、やっぱり駄目だろう」という気持ちもありました。自分たちの力を試してみたいと思ったんです。

とここまで書いて、はたと気がついたのですが、僕は自分たちが演奏している場面の写真を持っていませんでした。そこでもう一度、歌のおにいさんに登場していただきます。盛り上がってますね。われわれのライブも、このときと同じくらい盛り上がりました。演奏したレパートリーは、カバーが多かったですね。電源のない状況を生かして、５声のハーモニーに挑戦してみよう、ということでビーチ・ボーイズとか、「Doo-Wop」のスタンダードをやったりもしました。コーラスというのは本当に面白いもので、たしか昔に読んだ理論書に「よく調和したハーモニーほど、より遠くまで音が届く」ということが書いてありましたが、本当に、うまくハーモニーが決まったときなんか「電気なんかなくたって全然大丈夫じゃないか」と思えるんです。まあ、いろいろハプニングはありましたけれども。石原がリードをとった途端、急に雨が強くなって避難せざるをえなくなったとか（天の怒りを買ったんだとか、この話はあとでずいぶん笑いの種になってました）。それからその「避難中」も音楽は止まなかった、ということも面白かったです。強い雨の中、演奏と合唱を続けながら、お客さんと一緒にぞろぞろ列になってロッジまで移動をしたのです。もちろん、着ぐるみの動物たちも。その様子がどんなに滑稽で、どんなに素晴らしかったか、想像できますか？