ぼくはワルター・ギーゼキングというピアニストが好きなのだけど、この間なんとなく古本屋を覗いたら偶然、そのギーゼキングの著書(自伝的回想記)を発見しました。ギーゼキングはとても有名なピアニストなので、たぶん今でもぴかぴかの新装版が出回っているだろうな、とは思いましたが、40年前のしぶい装丁に惹かれて結局購入してしまいました。値段も1000円と手頃だったし、ざっとページを繰ってみたところ書き込みもなかったので、いい買い物じゃないかと思ったんですね。
ところがこの本、実は二個所だけ書き込みがあったんです。古書の書き込みにはまあ色々あって、文章の一部に傍線が引いてあったりだとか、ページの余白にメモ書きがしてあったりするものまでありますが、これはそのどちらでもありませんでした。写真をクリックして、拡大表示でご覧ください。なんと「校正」です。ぼくだったら誤植を見つけても勝手に脳内で正しく変換して読み進んでしまいますが、これを書き込んだ人はどうやら本当に我慢ならなかったらしい。赤鉛筆でびしっと直しています。たしかに「誌上」は対象が雑誌の場合に使う表現で、新聞の場合は「紙上」が正解です。はい、たしかに。でもこれってわざわざ書き込むようなことなのかなあ……。
ちなみにもう一箇所は「推賞」が「推奨」に直されています。前後を読んでみると、ここは褒めるという意味だけでなく「他人に勧める」という意味が含まれていることがわかります。なのでこれも正解。
たった二箇所だし、まあいいか、と僕は思っていますが。でもこれが的外れな変な校正だったらイライラしていたかもしれないなあ。